
1980年代前半、カナダのケベック州。若きギ・ラリベルテと同僚の大道芸人たちは、その日暮らしの貧乏生活を送っていました。路上で芸を披露し、帽子に投げ込まれるわずかなコインでパンを買う日々。
彼らには、ビジネスの知識などありません。あったのは「自分たちのパフォーマンスで人々を驚かせたい」という純粋な情熱だけでした。
しかし、情熱だけでは食べていけません。彼らは一念発起し、ケベック州の開拓450周年記念イベントの予算を勝ち取り、テントを張って「サーカス」の興行を始めることにしました。これがシルク・ドゥ・ソレイユの原点です。
当時のサーカス業界は、まさに衰退の一途をたどる「レッドオーシャン(血の海)」でした。 業界の絶対王者である「リングリング・ブラザーズ」などの伝統的サーカスが市場を支配しており、中小のサーカスは生き残りをかけて激しい泥沼の競争を繰り広げていたのです。
もし、ビジネス経験のないギたちが、ここで「普通のサーカス」として真っ向勝負を挑んでいたら、歴史に名前すら残らずに潰されていたでしょう。なぜなら、彼らには王者に勝てる資金も、有名な調教師を雇うコネもなかったからです。
しかし、ビジネスの経験がなかったからこそ、彼らは「業界の常識」という名の呪縛に囚われませんでした。彼らは、業界の誰もが疑わなかった「ある前提」を捨てる決断をします。それが、世紀の大逆転劇の幕開けでした。
