『孫子の兵法』全13篇の中で、最もビジネスに応用しやすく、かつ最高峰のエッセンスが凝縮されているのが、この「謀攻(ぼうこう)篇」です。
ビジネスの世界でも非常によく使われる有名な言葉、「彼を知り己を知れば、百戦危うからず(敵の実力や状況を把握し、自社の強みや弱みを正しく理解していれば、100回戦っても絶対にピンチに陥ることはない)」は、この謀攻篇に登場します。
しかし、多くの企業はこの言葉の表面だけを捉え、「競合を徹底的に分析して、競合より安い価格にしよう」「競合より機能を増やそう」と、正面から殴り合うためのデータ集めをしてしまいがちです。それは孫子の本意ではありません。孫子が本当に伝えたかったのは、その前段階にある「戦わずして勝つ」ための、具体的な優先順位(戦略の格付け)です。
孫子は、敵の城を力ずくで攻め落とす(力攻め)のは、自軍の被害も大きくなるため「最低の策(下策)」であると切り捨てました。そして、最も優れた「上策」は、「相手の謀略(戦略)を、実行される前に未然に崩すこと」であると説いたのです。
これを現代のマーケティングやWeb戦略に落とし込むと、驚くほど明確な違いが見えてきます。
まず、多くの企業がやってしまっている「下策(力攻め)」とは、競合と同じキーワード、同じターゲット層に対して真正面から勝負を挑むことです。大手企業が狙うような検索ボリュームの大きいビッグキーワードでSEO順位を競い合ったり、リスティング広告で1クリックあたりの単価を高騰させながら、泥沼の価格競争や相見積もりの嵐に巻き込まれたりする状態です。これでは、たとえ一時的に勝てたとしても、手元にはわずかな利益と疲弊したチームしか残りません。
一方で、目指すべき「上策(不戦勝)」とは、競合がまだ重要性に気づいていない「ユーザーの深い悩みや、具体的なロングテールキーワード」を徹底的に特定し、そこに特化した独自の価値を提供する戦略です。
例えば、「ホームページ制作」という広い市場で大企業と戦うのではなく、「整体院専門の、リピート率を2倍にするためのLP制作」というように、ターゲットと目的を極限まで絞り込みます。すると、その深い悩みを抱えたユーザーにとっては、大企業の「何でもできるホームページ制作」よりも、あなたの「整体院特化のLP制作」のほうが、圧倒的に魅力的な選択肢(唯一無二の存在)に映るのです。
このように、競合が参入してくる前に、特定のニッチ市場でユーザーとの強い信頼関係を独占してしまう仕組みを作れば、そもそも競合と戦う必要すらなくなります。
競合と戦って勝つのではない。「最初から競合が存在しない、または競合がついて来られない戦場を作り出すこと」。これこそが、2500年の時を超えて孫子が私たちに教えてくれる、現代ビジネスを無双するための最強の知恵なのです。