第1章:昭和28年から煮詰まり続ける、地べたのコク

暖簾をくぐった瞬間に、鼻腔を強烈に突き刺すあの特有の匂い。 お洒落なカフェのハーブの香りや、着飾ったWEB業界のカタカナ文字とは対極にある、泥臭くて、圧倒的にリアルな豚骨の匂いだ。

久留米ラーメンの生ける伝説、「大砲ラーメン」

私は目の前に運ばれてきた「昔ラーメン」のスープを、レンゲでひと口、静かに口に含んだ。 その瞬間、脳のシナプスがハッキングされたかのような強烈なコクが突き抜ける。スープの表面に浮かぶのは、通称「カリカリ」と呼ばれる、豚脂の塊を揚げた小さなキューブ。これがスープの単調さをバッサリと引き算し、味覚に完璧なエッジを立てている。

旨い。あまりにも旨すぎる。 だが、私が震えたのはその味だけではない。この一杯の裏側にある、狂気じみた「仕組み」に対してだ。

大砲ラーメンのスープは、毎日ゼロから作られているわけではない。 昭和28年の創業以来、スープの入った釜を一度も空にすることなく、別の釜で取った新しいスープを毎日、淡々と、泥泥と継ぎ足し続ける。

世に言う、「呼び戻しスープ」という技法だ。

古いスープの圧倒的な深みと、新しいスープのフレッシュな旨味が、釜の中で毎日融合し、煮詰まり、進化を続けている。つまり私が今すすっているこのスープの底には、70年以上前の創業の日の旨味が、確かに一本の線で繋がって生きているのだ。

スープを飲み干しながら、私は確信していた。 「これ、俺たちがやっているビジネスや投資と、完全に同じじゃないか」と。